化学戦

子が下腹部の異変に気づいたのは、研究に打ち込む修のりりしい横顔を見つめていた時だった。
痛みはなかった。ただ、全く突然に、腹の奥の方で、ぼこり、と大きな泡がうまれた。そんな感覚だった。
ぼこり、ぼこり。大きな泡はさらに続けざまにうまれ、香子の腹を内側から圧迫した。

「ん・・・!」

香子の小さな唇から、あえぎ声がもれ出た。修が香子の方を見ている。
赤くなってうつむいたままいそいで席を立った香子を、修が大きな声で呼び止めた。

「キョーコ、ちょっと待って!どこ行くんだ」
「お、御手洗行ってくるね」
「今すぐ手を借りたいんだけど、それからじゃダメか?」
「でも、シュウちゃん・・!」

ぼこり、とまた泡がうまれる。香子は、肛門に力を入れて耐えた。

「なっ、ちょっと頼むよ、すぐ済むからさ」
「・・わかったわ。じゃ、何をすればいいの」

香子は慎重に歩いて修のそばに立った。
修のデスクには、化学物質を合成する為の装置と物質材料のビンが、ところせましと並べられていた。

「もう研究が完成しそうなんだが、足りない材料があるんだ。倉庫にも無い。協力してくれるよな?」
「えっ、協力?材料って?」
「インドールとスカトール」
「ええぇっ!?だって・・・もしかしてそれって・・」

香子は思わず、自分の尻を押さえた。修はそれを見て、笑って言った。

「その通り。オナラからなら手っ取り早く抽出できる。だから『協力』って言ったのさ」

香子は耳まで真っ赤になって首を振った。

「ダメッ!イヤよイヤ、どうしてそんな、だってシュウちゃん、自分のを使えばいいじゃないっ!」
「いや、僕のは、とんと出る気配がなくてね。でも君は・・・そうでもないんだろ?」

修はいたずらっぽく微笑んで言った。
香子の中でまた、ぼこり、と泡がうまれる。

「も・も・も・もしかして、これ、シュウちゃんのせい・・・?」
「30分前に飲んだコーヒー」
「あっ!」

香子は、修が入れてくれたコーヒーのことを思い出していた。

「キョーコ。材料、もらえるかな?」
「バカァ!!」

そう叫びながら香子のくり出した平手打ちは、修に手首をつかまれて止められた。
修は抵抗しようとする香子を引き寄せ、耳元でできるだけ優しく囁いた。

「ごめんよ。でも、どうしてもキョーコのが欲しかったんだ。君ので、この研究を完成させたかったんだ」

香子の抵抗が止んだ。修が手首を放しても、香子はそのまま、修に寄り掛かるようにしてうつむいて立っていた。

「シュウちゃん、あたしのこと好き?オナラしても、好き?」
「ずっと好きだよ。ずっと前から」
「・・・じゃ、あげるわ。シュウちゃんに・・・・。教えて、気が変わらないうちに。どうすればいいの?」
「この紙に成分を染み込ませるんだ。後でそれを抽出する。」

修は、手の平サイズの、ペラッとした半透明の紙を香子に手渡した。
香子は、一瞬ためらって、助けを請うような目で修を見た。

「御手洗でしてきちゃ、ダメ・・・?」
「わかってると思うけど、それじゃ持ってくる間に成分が散ってしまう。成分を定着させるための処理が必要だ。今、ここでね」

香子は小さくため息をついた後、足をもじもじさせながら、修から渡された紙をパンティの奥へ入れはじめた。

「イ、イヤ、見ないで、恥ずかしい・・・・」

香子が哀願するように言うので、修は両手で自分の目を覆った。

「これでいい?」
「ウン・・あっ、はぁっ。もう出ちゃいそう・・・で、出るっ」

 『プゥッ・プゥゥ・ププ・プゥゥッ』

「いや・・大きな・・・音・・恥ずかしい・・」
「オナラの音もかわいいよ」

そう言いながら、修は指の間から薄目を開けて香子を見た。
香子は顔を真っ赤にし、肌を上気させながら、片手を乳房に、もう一方の手を股の間にのばしていた。

 『プスッ・プスーッ・プッスーッ・ブスーーッ』

香子が悶える度に、放屁の音が大きくなっていく。
修の周囲にも、異様なニオイがたちこめはじめていた。

 『ブゥゥーーッ、ブウッウウーーッ!』

「キョーコ、もういい、微量でいいんだ!ストップ!やめろ、おい!」

修の声に気づいた香子は、トロンとした目つきのまま、下着から抜き出した例の紙を修に手渡した。
すぐに作業にとりかかろうとした修は、手渡された紙を見て、目を疑った。
あろうことか、半透明だった紙が、まっ黄色に染まっていたのだった。
背後に忍び寄る気配に気づいて修が振り向くと、目の前に香子の、裸の尻があった。
香子の両手が尻の肉を左右に引くと、桃色の肛門が姿を現した。

「シュウちゃん、まだ出るんだから。責任、とってね。いい?するよ、オナラ・・・」

トロンとした目つきトロンとした目つきのまま香子がそう言い終えると同時に、放屁の快音が部屋じゅうに響きわたった。

 『ブウッブウゥーーーウウッ!!ブブブウゥゥーー・・・・』

修はガスの海でおぼれながら、香子のコーヒーに盛った薬のことを考えていた。
あれはもしかして、コーヒーや香子の腹中の何かと混ざって、大変な物質に変化してしまったのかもしれない。
例えば・・・強力極まりない催淫剤とか?

すごいぞ、これは新発見だ。あの紙から上手く抽出できるかな?

修は気を失う直前、ニヤリと微笑んだ。
なに、大丈夫さ。あの紙で足りなくても、僕の顔は、あれ以上にまっ黄色にされつつあるんだから・・・・・

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