香ちゃんは、モノトーンの毛なみもキュートなスカンク娘。お目目パッチリの美少女で、
性格スナオで、優しくて、普通なら、誰もがお友達になりたーいタイプなのですが、
いつも一人ぼっち。みんな、露骨にシカト、いじわるばかり。
なぜなら、いくらカワイクても、そこはスカンク娘、ある生理現象が、大問題なのです。
誰もが、同じようにするものなのに、美香ちゃんのそれは、とにかく、ニオイの濃さが、
ハンパではない。
まともにやったら、後方10メートル以内の生き物は、すべて気絶、1キロ先でも
鼻をつままなければいられないほどの、それは、それは、メチャメチャ強烈なヤツが
出てしまうのです。
美香ちゃん自身も、そのニオイが大嫌いなので、絶対にほかの生き物がいるところでは、
しないようにしているのですけど、誰もが知ってる世界最強のそれのせいで、美香ちゃんは、
いつも一人ぼっち、他の女のコがヒソヒソ話すような、キャーや、ヤダーや、ウッソーなんて
ことは、まったく体験できずにいる寂しいコなのでした。
今日も、美香ちゃんは、クラスメートたちが楽しそうに遊んでいる中、ひとり、楡の木影で、
本を読んでいました。
初夏の風がとても気持ちの良い日でしたが、誰も、美香ちゃんを誘おうとはしません。
誰かが、美香ちゃんの半径2m以内に近づくのは、彼女にイジワルするときだけなのです。
「ねえ、なんかくさくなくって?」
「そうね、あの木のほうからにおってくるみたい」
「やだーっ、あのコがいるわよ」
ウサギ、ヤマネコ、アライグマの3娘は、美香ちゃんを見つけると、露骨に鼻をつまんで
近づいてきました。
「ねぇ、あっちへいってよ」
自称一番人気の男たらしのうさぎ娘が言いました。
「あなたにオナラされると、私たち皆入院しなければならなくてよ」
エレガントを自称するヤマネコ娘がねこなで声で言いました。
「あなた、いるだけで、くさいわよ」
自称インテリのアライグマ娘が露骨に言いました。
美香ちゃんは、目を伏せると、向こうへ行こうとしました。
彼女がうつむいて歩きだそうとしたとき、突然、ワンポイントホワイトが入ったその前髪を、
大きな手で、くしゃくしゃっとされたので、びっくりして顔をあげました。
不良で有名な灰色おおかみさんでした。
「おいっ、ちゃんと上見といてあるきーな」
美香ちゃんは、この不良のおおかみさんが、どちらかというと、嫌いでした。
ちょっと、こわかったのです。
シカトされるのは、なれていましたけど、このおおかみさんだけは、いつも、挨拶がわりに、
美香ちゃんの前髪を、くしゃくしゃにしたり、ひどい時など、そのシッポの先っぽを
握ってみたり、いじわるばかりするのです。
「ごっ、ごめんなさい」
美香ちゃんは、その大きな丸い目に涙を浮かべながら、走っていきました。
「これで、安心して息が吸えるわ。くさいったらありぁしない」
ウサギ娘は、吐き捨てるように言うと、自称人気絶大な流し目で、おおかみさんに、
「ねえ、むこうでバスケでもしない?」とさそいました。
「わしゃ、すかん。」
おおかみさんは、プイッと向こうにいってしまいました。
3娘は、残念そうにおおかみさんを見ていましたが、向こうの大勢の輪の中に
入っていきました。
思わず走り出してしまった美香ちゃんでしたが、何かにつまずいて、地面に
ファーストキッスをささげてしまいました。
涙でよく前がみえなかったのです。
「ハハハハ、これは失礼。君がよく見ないのが悪いのだよ。」
血統書つきの犬のぼっちゃんが、ニタニタ笑いながら眺めていました。
彼がわざと足をだしてころばせたのです。
「君は、意外とかわいいお尻をしているね。もっとも、君のお尻をまじかに見たいと思う
いきものは、いないと思うけど。」
美香ちゃんは、思わず、尻尾でお尻を隠くすと、犬のぼっちゃんを、にらみました。
「おしいな。顔もかわいいし、スカンクじゃなかったら、ぼくのガールフレンドにして
あげたいくらいだ。でも、君といっしょにいると、君のニオイが染み付いて、僕は、
嫌われ者になってしまうな。」
犬のぼっちゃんは、美香ちゃんの落とした本を拾うと、
「フン、グレン・サバンか。」
と鼻で笑って持っていってしまいました。
それを、向こうからおおかみさんが見ていたのを、美香ちゃんは知りませんでした。
学校の帰り道、美香ちゃんがひとりで歩いていると、川の橋のたもとで怒鳴り声がしました。
見ると、おおかみさん一人に、ちょっとガラの悪そうな犬さんたちが大勢、
吼えかかっているのです。
おおかみさんは、とてものっぽなので、すぐにわかりました。
輪の外から傍観するように、犬のぼっちゃんの姿も見えました。
「おめぇなんかこわくねえぞ」
「ひとりで、でけぇつらすんじゃねぇ」
「ぼっちゃんを、かつあげするたぁ、いい度胸だ」
犬さんたちは、おおかみさんを取り囲んで、吼えまくっていました。
おおかみさんは、橋の欄干にもたれかかるようにして、腕組しながら、
静かに聞いていましたが、
「キャンキャンうるさいのう。どうしたいんや?はよかかってこんかい」
とニヤリと笑いました。
大きな口が耳までさけ、鋭いナイフのような牙がギラリと光ると、犬さんたちは、
思わず後ずさりました。
一瞬、頭ひとつ抜き出ていたおおかみさんの姿が消えたかのように見えました。
とたんに、きゃんきゃんという犬さんの悲鳴が聞こえ、数匹の犬さんが地面に血だらけになって転がっていました。
「うあああっ!」
犬さんたちは、尻尾をまいて逃げ出しました。
おおかみさんは、逃げ遅れた犬のぼっちゃんを、羽がい締めにすると、その首筋近くで
鋭い牙を光らせながら、
「ほかのもんのいたみ知らんことすんと、わしがわからせるでぇ!
ええな、ようおぼえときいな・・・」
と低い調子でいいました。
犬のぼっちゃんは、かわいそうなくらいぶるぶる震えながら、コクコクうなずきました。
そして、おおかみさんが、こずくように背中を押すと、一目散に逃げていきました。
美香ちゃんは、初めて喧嘩を見たので、恐ろしくて胸がつぶれそうでした。
でも、おおかみさんのさびしそうな目が、少し気になりました。
「おおかみさん、とても強いけど、さびしいんだ・・・・」
美香ちゃんは、おおかみさんと、ちょっぴりお話しがしてみたくなりました。
次の日、美香ちゃんが、誰より早く、学校にいくと、机の上にグレン・サバンの小説が
ぽんとのせてありました。
「それ、あんたんやろ。きのう、校庭に落ちてたさかいに」
誰もいないと思っていたのに、振り返ると、いつも間にか、教室の隅で、おおかみさんが、
壁に寄りかかりながら、腕組してこちらを見ていました。
美香ちゃんは、すこしびっくりしました。
あわてて、本をとりあげると、本の裏に、すこし血がついていました。
それを見た美香ちゃんは、一瞬で、すべてを理解しました。
美香ちゃんは、実はとてもお勉強のできる、頭の良いコだったのです。
「どうも、ありがとうございます。おおかみさん。ほんとにありがとう」
「なんや、あらたまって。」
おおかみさんは、近づくと、また、大きな手で、美香ちゃんの前髪あたりをくしゃくしゃ
しました。
いつもは、いやでたまらないのに、今日は、むしろ、心臓が苦しいくらいに、
ドキドキしました。
そこで、美香ちゃんは、はっと気がついたのです。
このおおかみさんだけは、美香ちゃんに、けっしてくさいとはいわなかったのです!
おおかみさんも、美香ちゃんが、うれしそうに二コリとしたので、胸にパンチをいれられた
ようになりました。
なぜなら、偏見なく見れば、美香ちゃんは、つぶらな瞳のとてもかわいらしい顔をした
女のコでしたから・・・・。
「あの、わしな、ひとつあんたに頼みたいことあるねん。」
おおかみさんは、おかしいくらいに緊張して言いました。
「はい、なんですか?」
美香ちゃんが、精一杯の笑顔で答えると、おおかみさんは、大きな手で、
美香ちゃんのずっと上の方にある、自分の頭の方をくしゃくしゃしながら、
「わしな、文系苦手やねん。このままじゃ、こんどのテストで赤てんくらいそうなんや。
ちびっと教えてくれはるとたすかるわ」
「はい、よろこんで」
「おおきに」
お互いの瞳と瞳が合いました。美香ちゃんは、見下ろすおおかみさんの目が
とてもやさしいことに気がつきました。
それ以上に、かなりハンサムなことも・・・
暖かいものが流れたとき、それをどやどやと入ってきた、3娘のとげのある言葉に
じゃまされました。
「おはよう。ねぇ、今日は朝から教室がくさくない?」
「えっ、マジーっ、スカンク娘がもういるじゃん」
ウサギ娘は、美香ちゃんを無視して、おおかみさんにべったり近づくと、
「おおかみさん、またけんかしたんだって。全部のしちゃたみたいだけど、相手が悪いよ
犬のぼっちゃんのおやじさん、やばいみたいよ。でも、だいじょうぶ、わたしのパパは、
エライから、話してあげるわよ」
おおかみさんは、心底うるさそうに顔をしかめました。
でも、美香ちゃんには、やさしそうな目を向けたのを、ウサギ娘は、見逃しませんでした。
ウサギ娘は、ものすごい顔で、美香ちゃんを睨むと、
「ああっ、くさい、くさい!息が詰まって死にそうだわ。なんで、スカンクと同じ教室に
いなきゃならないのよ!」
と、キーキー怒鳴り散らしました。
「わたし、くさくないように気をつけます。だから、いっしょにいさせてください」
いつもは、めそめそ泣いている美香ちゃんが、きっぱりと言ったので、ウサギ娘は、
あっけにとられて言葉がでませんでした。
突然、おおかみさんは、美香ちゃんをぐわっと抱き寄せると、かがみこんで、その頭に
鼻を近づけて、
(おおかみさんは、のっぽだったので、美香ちゃんの耳が、胸のあたりだったのです)
「わしは、ちぃーともくさいことあらへん。むしろええにおいやがな。」
と言いました。ウサギ娘は、それを見て一瞬泣き笑いのような、へんな顔をしました。
(美香ちゃんは、一瞬心臓が止まってしまいました・・・・)
「くさいのよ、ぜったいにくさいのよ、スカンクなんか大嫌い!」
ウサギ娘は、キーっと叫びながら、教室を飛び出していってしまいました。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
ヤマネコ娘と、アライグマ娘があわてて後を追いました。
それを見て、おおかみさんは、やれやれといった調子で、頭をふると、
目がふわふわになってしまっている美香ちゃんに、
「ほな、やくそくやでぇ」
とだけ言って、頭をひょいとかがめて、同じく教室を出て行きました。
美香ちゃんが、やっと、現実にもどったのは、先生が入ってきてからでした・・・・・。
とにかく、腹の虫がおさまらない3娘は、犬のぼっちゃんを、誘惑して仲間にしました。
犬のぼっちゃんは、ずるいわりには、弱虫で、もうあのおおかみさんを見るのもいやでしたが、
ウサギ娘に言い寄られて、パパにあることないこといいつけました。
おおかみさんは、校長に、呼び出されて、こんど、喧嘩したら、退学だと
はっきり宣言されてしまいました。
おおかみさんは、とても、悲しそうな顔をしました。
なぜなら、ほんとは、勉強が好きで、これから、もっと、もっと勉強したいと
思っていたのです。
さらに、このパパは、お金を使って、かわいそうな犬のぼっちゃんのために、とてもおそろしい
ボディガードをやといました。
マッドくまさんという、山のように大きなガタイで、あまりにも残酷に相手を痛めつけるので、
ついこの間、他の学校を退学になってしまったやくざものでした。
ほどなくして、壁のようなマッドくまさんを従えて、学校中を我が物顔で、のし歩く、
犬のぼっちゃんの姿を、あちこちで見かけるようになりました。
そして、犬のぼっちゃんのさらに先頭には、ウサギ娘の姿がいつもありました。
彼女は、まるで、たくさんの家来を従えた女王さまのようでした。
美香ちゃんは、この頃、お友達と話をするのが、とても楽しくなりました。
ちゃんと、お話すれば、だんだん、誰もくさいなどど言わなくなったのです。
美香ちゃんは、お勉強も、良くできましたし、何よりも、かなりかわいい顔を
していましたので、実はけっこう人気があったのです。
ただ、3娘がこわいので、女のコ達は、美香ちゃんのことを避けていたのでした。
でも、正直言うと、一番楽しいのは、やっぱりおおかみさんとお話している時でした。
美香ちゃんは、乱暴者で有名なおおかみさんが、ホンとはとてもやさしくて、意外に読書家で、
とても物知りなのにびっくりしました。
ただひとつ、ちょっぴり残念なのは、この頃、おおかみさんは、美香ちゃんの前髪を
くしゃくしゃしたり、ましては、シッポをつかんだり、してくれなくなったのです。
放課後、美香ちゃんと、おおかみさんが、教室でクラスメートと近づいて来た夏休みの話を
しているとき、ウサギ娘を先頭に、犬のぼっちゃんと、マッドくまさんが
教室に入って来ました。
「おおかみさん、この間は、よくもやってくれましたね。僕をいじめたんで、パパが
怒ってます。これ以上、僕をいじめると退学になりますよ」
犬のぼっちゃんが、いじわるな目をしていいました。
おおかみさんは、犬のぼっちゃんの言葉を無視するように、マッドくまさんを
じっと見つめていました。
「おおかみさんは、そんなことしてません!」美香ちゃんが、思わず叫びました。
「あら、スカンク娘さん。最近、ずいぶんおめかししているみたいですけど、でも、
おならしなくても、あなた、充分くさいわよ」
ウサギ娘が、バカにしたように言いました。まわりのクラスメートは、いつのまにか、
ソソクサと、美香ちゃんとおおかみさんから離れていきました。
マッドくまさんは、美香ちゃんの方を向くと、いきなり、ううううっとうなりながら、
巨大な手を広げて抱きつこうとしました。
「きゃ!」
美香ちゃんは、顔をそむけて後ろを向きました。
一瞬早く、おおかみさんが、その巨大な手を、ブロックしました。
背丈は、大差ないものの、体重では、くまさんは、おおかみさんの3倍はありそうでした。
お互いの筋肉がふくれあがり、ものすごい力くらべが始まりました。
おおかみさんは、負けてはいませんでした。
負けたら、美香ちゃんがつぶされてしまいそうだったからです。
「ほう、おおかみさん。不純異性交遊の他に、また喧嘩ですか?つくづくしょうがない
不良ですね。そこのスカンク娘ともども、退学になりますか」
犬のぼっちゃんが、冷たく言い放つと、おおかみさんは、一瞬力を緩めてしまいました。
マッドくまさんは、そのチャンスを決してみのがしませんでした。
右手を振り払うと、そのままおおかみさんのボディにものすごいパンチをお見舞いしました。
おおかみさんは、その場にうずくまりました。
よけようにも、よけたら、後ろの美香ちゃんの命がなくなっていたからです。
「おおかみさん!」
美香ちゃんが、覆い被さるように、抱きとめました。
「だいじょうぶや・・・、なんでもあらへん・・・・、かるいもんだがや」
おおかみさんは、苦しそうに咳き込みました。
「おッ・ホ・ホ・ホ・ホ・ホ!」
ウサギ娘が勝ち誇ったように笑いました。
さすがに、美香ちゃんも、目を三角にして見返しました。
「あら、得意のチョーくっさいおならで反撃するつもり?あなたにお似合いのやり方だわ」
「そんなこと・・・・しません・・・」
美香ちゃんは、思わず目を伏せました。
「今日のところは、これで許してあげるけど、これから、いじめて、いじめて、
うんといじめて、最後はふたりとも退学にしてやるから、お楽しみにね」
女王様ご一行は、ばかにしたように笑いながら、出ていきました。
「おおかみさん、おおかみさん!」
美香ちゃんは、うずくまるおおかみさんを抱きとめながら、とうとう自分も
泣き出してしまいました。
それから、ことあるごとに、うさき娘たちは、美香ちゃんに、くさい、くさいといじめました。
でも、すこしこれまでと違うのは、いっしょになってはやし立てるクラスメートは
いませんでした。
黙っているのが、彼らにできる精一杯の好意だったのです。
おおかみさんは、かわいそうに、一週間の停学になってしまいました。
犬のぼっちゃんは、ほんとは、退学にしたかったのですが、皆が見ている前での
出来事でしたし、おおかみさんをこれ以上悪者にすることが、
くやしいけどできなかったのです。
おおかみさんが、停学になっている間、美香ちゃんは、一生懸命ノートを取って、毎日、
おおかみさんへ届けました。
おおかみさんには、申し訳ないと思いながらも、美香ちゃんは、ルンルンで、
これをこなしました。
美香ちゃんが、おおかみさんの家にいくと、おおかみさんは、いつも、ちぃちゃな丸めがねを
かけて、そのおおきな体をかがめるようにして、静かに本を読んでいました。
そして、美香ちゃんを見ると、ほんとにうれしそうな顔をしました。
おおかみさんのやさしい笑顔を見ると、美香ちゃんは、とても、幸せな気分になりました。
そんな美香ちゃんを、時々影から、うさぎ娘が、じっと見つめているのを、
彼女は知りませんでした。
おおかみさんの停学が解ける最後の日、いつもどおり、学校帰りに美香ちゃんが、
今日のノートを届けにいくと、家の前に知らない犬さんがいて、おおかみさんは、留守でした。
その犬さんは、おおかみさんの友達だと言ってから、
「おおかみさんが、学校の体育館の倉庫で待ってるよ。すぐきてほしいって」
と言いました。
美香ちゃんは、心臓がドキンとしてしまいましたので、すこしおかしいことに
気がつく余裕などありませんでした。
そして、素直に、その犬さんについていきました。
もう、クラブ活動もすんで、誰もいなくなった体育館は、すこし不気味でしたが、
おおかみさんが待っているかと思うと、美香ちゃんは、平気でした。
犬さんは、ひとりで、どんどん歩いていき、体育館のはずれの倉庫に入っていき、
「おおかみさん、美香ちゃんを連れてきたよ」
と中で言うのが聞こえました。
美香ちゃんは、かなりどきどきしていましたので、深呼吸をして、できれば、鏡に自分の姿を
映してみたかったのですが、残念ながらそんなものはありませんでした。
「おおかみさん・・・」
美香ちゃんは、うれしそうに暗い倉庫に入っていきました。
「キャッ!」
突然、両脇を何者かにつかまれると、美香ちゃんは、その尻尾を両足で挟むように、おなかの方
にまわされて、体に縛り付けられました。
それから、有無を言わさず、両腕をバンザイする格好で、皮紐でつるされてしまいました。
あっという間の出来事でした。
「ウヘへへへへ・・・・」
マッドくまさんを中心にして、数匹のガラの悪そうな犬さんと、やまねこ、アライグマの両娘が
ニヤニヤしながら、見つめていました。
「あら、おおかみさんじゃやなくて、残念でした。」
ウサギ娘が、例の勝ち誇った調子で、後ろから進みでました。
「なんで、こんなことするんですか!」
「あなたって、ほんと生意気なのよね。でも、その格好じゃ、お得意の最後っ屁は
こけないし、おならができないスカンクなんて、ちっともこわくないわよ。
これから、たっぷりかわいがってあげるわ。」
ウサギ娘は、美香ちゃんに近づくと、あごを持ち上げて、乱暴に上を向かせました。
「スカンクのくせに!ちょっとばかし、かあいい顔してるからって、なめんじゃないよ。
あたいをばかにすると、ただじゃすまないってことを、思い知りな!ケッ!!」
ウサギ娘は、抵抗できない美香ちゃんの顔につばをはきました。
美香ちゃんは、それをぬぐうこともできません。
「このスカンク娘に、オスのありがたみを教えてやりな。どうせ、こんなときでもなきゃ、
屁がくさすぎて、誰も近づけやしないんだ、おまえたち、ボランティアだよ」
「ウヘ、ウヘ、ウヘヘヘヘヘ・・・・・」
マッドくまさんが、大根のような自分の****(ピー!禁止用語です)を取り出しました。
美香ちゃんは、思わず、顔をそむけました。
「まず、クマさんにお口でサービスしてあげな。スカンク娘の下の方の穴なんて、
頼まれったって願いさげだってさ」
マッドくまさんは、その巨大で、醜悪な****(ピー!禁止用語です)を
右手でしごきながら、美香ちゃんに近づいてきました。
「ほら、顔そむけんじぁねぇよ!」
アライグマ娘が、乱暴に美香ちゃんの顔を正面に捻じ曲げようとしました。
「おおかみさん・・・・」
美香ちゃんの丸い大きなひとみから、みるみる大粒の涙が零れ落ちました。
「ウヘ、ウヘ、ウヘヘヘヘヘ・・・・・」
「いいざまだよ。ここにいるオスたち全員のを一晩中くわえさせてやる。
もっとも、最初のくまさんので、そのちいさなあごがはずれちゃうかもね。
そしたら、その危険なケツの穴に詰め物をして、下のほうの穴も経験させてやるよ。」
「いくら、ずうずうしいあんたでも、もう学校にいられないじゃん。チョウざまー!」
ウサギ娘の言葉にあわせて、皆がいっせいに爆笑しました。
美香ちゃんは、もはや、ポロポロ涙をながすことしかできませんでした。
マッドくまさんは、自分の****をじょじょに美香ちゃんの口へ近づけていきました。
美香ちゃんが、顔をそむけようとすると、アライグマ娘が、無理やり口をこじ開けました。
「おおかみさん、助けて・・・・」
「あんたなんか、いなくなったって、誰も気にするやつはいないわよ」
「わしは、こまるでぇ!」
美香ちゃんを除いた全員が、ぎょっとして振り向きました。
倉庫の入り口で、逆光のシルエットの中、背の高い影が腕組して、こちらを見ていました。
「おおかみサン!!」
「このコがおらんと、赤点や・・・・。わしの人生そのものやがな・・・」
おおかみさんは、なにかをひきずりながら、こちらに近づいてきました。
美香ちゃんの周りではやし立てていた全員が、思わず、後ずさりしました。
「ほら、こいつが、全部はきよった。」
おおかみさんは、伸びている犬のぼっちゃんを、ぞうきんのように無造作に、
マッドくまさんめがけて放り投げました。
なんという腕力でしょう。
マッドくまさんが、反射的に右手で、払いのけたからたまりません。
犬のぼっちゃんは、ゴムマリのように、壁までぶっとんで、いったん、べちょっと、
はりつくと、ずるずる床に落ちていきました。
「かわいそうに、こわかったやろ・・・、もうだいじょうぶや、わしがついとる!」
おおかみさんは、美香ちゃんの前にしゃがむと、大きな手で、その前髪をくしゃくしゃ、
しました。
美香ちゃんは、涙が出すぎて、おおかみさんの顔がよく見えませんでしたが、
一生懸命笑顔を作ると、
なんども、なんども、うなずきました。
おおかみさんは、美香ちゃんの両手を吊り下げている皮ひもを、無造作に引きちぎると、
美香ちゃんを降ろしました。
「ほんに、えげつないのぉ・・・最低や、おまえら・・・・・」
おおかみさんは、ゆっくりと立ち上がるとマッドくまさんの方を見つめました。
おおかみさんの目から、いつもの悲しそうな光が消え、ぞっとするくらい残忍な光が
浮かんでいました。
思わず、ウサキ娘たちは、くまさんの後ろに隠れました。
「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!」
マッドくまさんがうなりました。
くまさんが、その巨体からは、信じられないスピードで、突進すると、その必殺の右手を
おおかみさんめがけてぶちあてました。
やったぁー!とウサギ娘たちが歓声をあげようとしたとき、一瞬、長身のおおかみさん
の姿が消えました。
おおかみさんが、それよりはやく、身をかがめて、ふところにとびこんだのです。
くまさんの右手は、むなしく空を切った瞬間、そのあごへ、おおかみさんのこん身の
アッパーカットが炸裂しました。
ぐしゃっ、という骨のつぶれるいやな音が響き、くまさんの巨体が宙に浮きました。
全員が、我に帰ったとき、こぶしを高く突き上げたままのおおかみさんの足元で、完全に
白目をむいて痙攣しているマッドくまさんの姿がありました。
圧倒的な強さでした。
「ひぇぇぇぇぇぇー!」
いぬさんたちが、一目散に逃げ出しました。
おおかみさんは、また少し悲しそうな目をして、ため息をつきました。
ウサギ娘は、犬さん達とは、ぜんぜん違った意味で、足ががくがくして、このまま、
おおかみさんの厚い胸に飛び込んでいきたかったのですが、自尊心が、それを
かろうじて抑えました。
おおかみさんが、決して、自分を抱きしめたりしないことがわかっていたのです。
「もう心配あらへん。立てるか」
涙が水道のようになってしまった美香ちゃんは、うなずいたものの、とても立つことがで
きませんでした。
これも、ほんとはウサギ娘と同じ理由なのですが、おおかみさんの扱い方は、ぜんぜん
違いました。
「?!!!」
美香ちゃんが、声をあげる間もなく、おおかみさんは、大きな腕で、美香ちゃんを軽々と
抱き上げてしまいました。
「だっ、だいじょうぶです!歩きます・・・」
美香ちゃんは、慌てて言いました。
ほんとうは、もうどうしようもないくらい、どきどきしてしまっている胸の鼓動を、
おおかみさんに聞かれるのが恥ずかしかったのです。
「軽いもんだがや。ほな、このコ、つれていくでぇ」
おおかみさんは、美香ちゃんを抱っこしたまま、振り返らずに出て行きました。
美香ちゃんは、おおかみさんのとてもたくましい胸に、そっと、ほほを寄せました。
ほほが、赤いのを隠すためだと、自分に言いわけしながら・・・・・
おおかみさん達の姿が見えなくなると、ウサギ娘は、腰が抜けたようにしゃがみこんで、
あたりかまわず、オイオイと泣きだしてしまいました。
初夏の日差しがふりそそぐ青空の下、どこまでも明るい緑の草原に、気持の良いそよ風が
流れていきます。
美香ちゃんは、おおかみさんを待っていました。
やくそくの時間には、まだかなり間がありました。はやく、おおかみさんに会いたくて、
会いたくて、ついつい早く来すぎてしまったのです。
今朝から、体中ぴかぴかにして、今日は、前髪をくしゃくしゃされても、
尻尾の先を握られても、ぜんぜん平気です。
もしかして、尻尾の先じゃなくて、付け根のほうでも・・・・
キャ!!そこまで、考えて、美香ちゃんは、ひとりで真っ赤になりました。
と、同時に、スカンク娘の本能から、最悪の生理現象を、尻尾の付け根あたりで
感じてしまったのです。
「やだーっ、もしかして・・・・、さいあくぅー」
美香ちゃんは、あわてて、周りを見回しました。幸い、広い広い草原には、他の動物の姿は、
見えません。誰にも迷惑は、かからない筈でした・・・・
しかし、実は、美香ちゃんの後ろから、ひそかにしのびよる三つの影があったのです。
ウサギ娘達でした。
「今日こそは、思い知らせてやる・・・」
ウサギ娘は、今日が二人のデートだということを知っていました。
その前に、おめかした美香ちゃんに、赤いペンキをぶっかけてやるのが、彼女の復讐でした。
ウサギ娘を先頭に、幸せいっぱいの美香ちゃんに、風下から、
3娘は徐々に近づいていきました。
美香ちゃんは、いつもの通り、我慢しました。
でも、もしも、おおかみさんとふたりの時に、そして、おおかみさんが、その大きな手で、
やさしく、尻尾の付け根あたりを・・・
そこまで、想像してしまった美香ちゃんは、迷うことなく、ポケットにしまっておいた、
ガスぬきのおくすり、さつまいも!を食べ始めたのです。
「もう少しで、まっかかのスカンク娘がいっちょうあがりぃ・・・」
ウサギ娘が、ペンキをかけようと、顔をあげたとき、彼女の目の前で、美香ちゃんのおおきな
尻尾がゆっくりともちあがりました。
ぷぅぅぅぅぅうううう、ぶすっ、ぶすっ、すっかぁぁぁぁっぁぁああああ・・・・・
美香ちゃんの尻尾の付け根から、まっ黄色の風が巻き起こりました。
その黄色い風は、付近のたんぽぽの綿毛を吹き飛ばして、その綿毛のいくつかが、
ウサギ娘の鼻にふわりと、つきました。
「むぷぷぷぷっぷぷー」
ウサギ娘は、散々くさいくさいといじめた美香ちゃんのおならが、
そんななまやさしいものでないことをやっと知りました。
それは、おおかみさんに勝るとも劣らない、凶器だったのです!
目がつぶれるほどの悪臭に、ウサギ娘は、悶絶し、
口をパクパクあけながら痙攣するだけでした。
そよ風に助けられたたんぽぽの綿毛は、黄色い風を引き連れて、
後ろのやまねことアライグマ娘の鼻にも飛んでいきました。
「うげーっ、げほっげほっ」
アライグマ娘は、ものすごい臭気にむせ返り、鼻をかきむしりながら、ぶっ倒れました。
「げーっ、げろげろ」
ヤマネコ娘は、ランチのフランス料理を全部あたりに吐き出してしまいました。
たんぽぽの綿毛は、さらに空高くまいあがり、鳥さんのくちばしにもつきました。
「がぎごーっ」
巻き添えを食った鳥さんは、そのあまりのくささに、くちばしごとひんまがってしまい、
墜落しました。
「ふぅーっ、やっちゃった、エヘっ」
美香ちゃんは、尻尾で仰いで、この危険なおならガスを遠ざけました。
でも、心配しなくても、すぐに、初夏の気持の良い風が、みんな遠くに運んでくれました。
「おおかみサン!」
美香ちゃんは、思わず駆け出しました。
向こうに、トラッドなネイビーブルーのブレザーでぴかぴかにめかしこんだ、
おおかみさんの背の高い姿が見えたからでした。
そんな美香ちゃんの姿を、一足はやい夏の太陽が、応援しながらいつもでも見つめていました。
おしまい
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