、うぅん・・・」
目が醒めたとき、杏美はひどく窮屈な格好でテーブルの上に乗せられていた。
上体はテーブルに伏せ、両膝をついてお尻を高くつきだしている。前に伸ばした両手が、テーブルの足にそれぞれ手錠で繋がれて拘束されている。
「・・・?」
杏美はしばらく、自分のおかれた状態を理解できなかった。また、この白い小部屋に漂う匂いにも最初は気づかなかった。
シュウゥゥ・・・シュウウゥ・・・たまに、杏美の背後から何かの空気が漏れるような音がしている。
どうして自分がこんなことになっているのか。杏美は呆けた頭をなんとかしっかりさせようと、軽く頭をテーブルに打ちつけて考えてみた。
今西杏美、19歳。職業アイドル。雑誌などのグラビアでちやほやされた時期も終わり、バラエティ路線に行くか女優方面に行くか事務所も決めかねている時期である。昨今は小さな企業のCMや十把ひとからげのグラビアの仕事が入ってくる程度。昨日も、地方のJAの企画ということで、サツマイモを食べまくるCMを撮ってきたばかりだ。
今日は久しぶりにピンのグラビア撮影ということで、白いワンピースの水着に身をつつみ、撮影前の打ち合わせをしていた・・・ハズだった。
出されたアイスティを飲みながらカメラマンと喋っているうちに、猛烈にねむくなって・・・気がついたら、この状態だった。
どういうこと?ここは何処?社長は?マネージャーは?
ただならぬ状況に呼吸が荒くなっていく。しかしそのとき、杏美は、肺とは別のところで呼吸をしている感じに気がついた。
さっきから聞こえるシュウゥ・・・という音。その音にリンクして、下腹が膨れたりしぼんだりする。
まさか、この匂いは・・・!?
杏美は、手錠で拘束されていることも忘れて勢い良く振りかえろうとした。テーブルがバランスを崩してガタンと大きな音をたてる。この状態でテーブルが倒れれば、受身をとることができない。顔面を強打してしまうことは必至だ。杏美はヒヤっとしながら、今度は注意深く、自分の尻を見た。
「あっ、ああっ!?何コレ・・・えっ、どうして!?」
白い水着の尻の方から、細い透明なチューブが伸びていた。無理な体勢で振り向いているため、尻の山が半分くらいしか見えていないが、この状態から、チューブは自分の肛門に刺さっていると察した。
実際、その通りだったのだ。彼女が着ていた白い水着、その尻の部分がぱっくりと丸く切り取られ、肛門部分だけが露出していたのである。
腸内に溜まったガスが、管によって力むことなく排出される。そして、胸部をしめつけられている為に腹で呼吸をすることによりポンプのように、外の空気が体内に注入されていたのだ。
つまり、この漂う悪臭は
「私の・・・おなら!?」
真相に気づいた杏美はボッと火がついたように赤面した。誰がこんなことを!羞恥と怒りで、涙がこみあげてきたその時、目前にあるテレビモニターが突然付き、映像が映し出された。
少し歪な、白い丸いもの。それが杏美のお尻であることは一目でわかった。白い水着は既に丸く切りとられていたが、チューブはまだ刺さっていない。
モニターのお尻は、しばらくじっとしていた。だが、キツイ体勢をとらされているからだろう、そのうち苦しげな杏美の声が流れた。その直後、アップで映し出された肛門が膨らむように盛り上がり、
ブゥゥゥゥ~。
開かれた黒い穴から放たれた大きなガスが、モニターのスピーカーから聞こえた。
「い、いやあっ!やめてえぇ」
呆然とモニターを見つめていた杏美は、ハッと我に返ると大声で悲鳴をあげた。アイドルでなくても19歳の乙女だ。オナラする所をビデオに撮られて嬉しい訳がない。
ブスッ。ぷぅぅ~。
映像は編集され、途中をカットされて、2度3度と、はしたないオナラの音が続けて聞こえてくる。
その間も、チューブからガスは抜けでているのだ。たぶん、今も録画は続けられているのだろう・・・。
「やだっ、やめて!撮らないでよおぉ!恥ずかしいよぉ・・・」
普段勝気で、カメラマン泣かせと言われた杏美が、誰ともわからない犯人にぽろぽろ涙をこぼして懇願している。普段彼女に泣かされている男達がこの状態を見たら、きっと溜飲を下げて悦ぶことだろう。
そうだ、今日の打ち合わせの時に「今日の撮影は、プライベートビデオだよ。特別なものになるから気合いれてやってね」とマネージャーに言われていたんだったっけ。
涙を溜めた瞳で宙をボウっと見つめながら、杏美は思い出した。
そういえば、昨日の仕事も変だった。最初、打ち合わせではふかしたサツマイモを美味しそうに齧るだけだったのに、やれ角度が悪いだの、ふかし芋よりスイートポテトがいいだの、撮影終了までに大量のサツマイモを食べさせられたのだ。あれだけ食べれば、今日オナラが沢山噴き出しても不思議ではない。
事務所全体に仕組まれた・・・?だとすれば、悪夢の撮影が終わるまで、誰も助けには来ない。杏美は半ば観念した。
映像が終わって、画面が青くなった。そして次の瞬間再び画像が映し出されると、それは尻にチューブがささったものだった。軽く尻を振ると画面の尻も左右に揺れる。ライブ映像に切り替わったらしい。
臭いよお・・・。
自分の出したものとはいえ、臭いものは臭い。小さな部屋は杏美の排泄したガスで充満しつつあった。
その時、後方からノブが回る金属の音がして、ドアが開いたようだった。
終わった。杏美はホッとした。と同時に怒りがこみあげてきたが、ここで入ってきた者にボロクソに罵声を浴びせるといつまでも続いてしまうと考え、なんとか押しとめた。
誰だかわからないが、撮影スタッフなのだろう。杏美はそう思い、手錠が外されるのを待った。
自由になった途端に、その人物を叩きのめそうと心で準備していた。
しかし、手錠が外されることもチューブが抜かれることもない。それどころか、杏美の目前のモニターには、真っ赤な風船を膨らませている覆面の男が映っていたのだ。
「な、何してる・・・の?撮影終わりでしょ?ねぇ、お願い。早く手錠を外してよ・・・!」
杏美は我慢できなくなって、なんとか猫撫で声で懇願した。いつも強気な彼女が下手に出る事は、屈辱的で恥ずかしくもあったが、今はそんなことにかまっていられない。早く終わって欲しい、そのことしか頭に無かったのである。
「お願い!早く解いて!社長、見てるんでしょ?助けてよぉ!私のこんな絵撮って、どうするのぉ!?」
モニターの映像は、完全に大きくなった赤い風船を映し出していた。表面に白い文字が見える。
Ami Imanishi ハートマークと一緒にプリントされた文字。その風船は、杏美がデビューしたときの宣伝用風船だったのだ。
男の手が、杏美の尻からぶらさがっているチューブをつまむ。抜かれる!杏美は思わず体をこわばらせた。
だがチューブが抜かれる感覚はない。
不思議に思った杏美がモニターを見る。と、そこには、赤い風船の口にチューブを挿しこもうとしているライブ映像が映し出されていたのだ!
「な、何してるの!?やだやだ、やめてよぉぉお!」
杏美が絶叫するなか、赤い風船はチューブをさしこまれて、杏美の尻からゆらゆらぶら下がった。風船の中で行き場を失っていた空気が、杏美の体内へ出口を求めて押し寄せる。
シュウゥゥゥゥゥゥ!
「イヤぁああぁあああ!」
再び杏美が絶叫した。尻を振るのに合わせ、チューブ付き風船がシュウシュウ音をさせながらふわふわと大きく揺れ動く。
次第に強くなる杏美の下腹の膨満感。風船の空気はたったいま、全て杏美の屁に変わってしまったのだ。
「な、なに・・・」
初めての膨満感のせいで、杏美は声を出すこともできなくなっていた。顔をさらに紅潮させ、ただかぶりを降っているだけだ。
風船の空気だけど、私のお尻から出ちゃえばそれはオナラ。恥ずかしい匂いで私を責めるオナラになる。
このあと風船が外されて、また音もなくチューブを通って、全部放出されるのね・・・。
杏美はそう考えていた。
だがその人物は、一言も発することなく、杏美の尻からチューブを抜いた。
「!」
一瞬痛みが走ったが、すぐさま杏美は尻の筋肉を引き締めた。ガスと化した空気が漏れないようにするために。
「あ・あ・あ・・・やだあ、もう・・・」
厳しい体勢で、杏美は尻を引き締めつづける。チューブを抜かれてしまったということは、油断するとまたさっきのビデオのように、音をたてて放屁することになる。
同じ放屁でも、音があるのと無いのでは、映像として残るのならば大違いだ。だが少しでも音を漏らせば、高性能のマイクがそれを拾って記録してしまうであろう。すでに放屁音を録られているとはいえ、もうこれ以上、乙女の恥ずかしい音を公表することはできなかった。
杏美が闘っている時、まだ男は杏美の後方に立っていた。
ファンの間でも定評のある丸い尻が、ガスを我慢するために、くねくねといやらしく揺れる。男は持っていた小袋から細かい金粉を取り出し、杏美の肛門付近にサラサラとかけ、そして出ていった。
「なんなのよ・・・もう、なんだっていうのよお・・・」
モニターの尻は、尻から内腿にかけて、金粉でキラキラと輝いていた。肛門の部分は金粉の山で覆われている。モロに穴が見えなくなっただけ、杏美はホっとしていた。いくら自分大好きアイドルとはいえ、尻の穴まで見たいとは思わない。
だけど、一体なんだっていうの?今まで大写しにしておいて・・・。
ちょっと考えればすぐ答えがでる事だが、今の杏美には深く考えることすらできなかった。強い放屁の欲求が彼女の思考すらも麻痺させていたからだ。
ああ・・・オナラ出ちゃう・・・。
オナラが・・・撮られて・・・録音されて・・・
やだよぉ・・・出ちゃうよ・・・オナラが・・・
「オナラが・・・」
知らず知らずのうちに、杏美は頭に浮かんだ通りの言葉を発していた。
「オナラが出ちゃう」
「臭いよぉ・・・オナラ・・・」
「撮らないで・・・」
「・・・あぁ、出る・・・」
「やだ、やだ!」
杏美の括約筋は限界に達していた。
「うそっ!やだ、もう・・・!」
「出る!出るぅ!」
「ィヤぁぁぁぁっ!!」
ボッ!
ブゥゥゥウウウウゥゥウゥウ!!
甲高い叫びと放屁の爆音。と共に、白い杏美火山は金粉を撒き散らして噴火した。
ブゥッ!ブッ!ブッ!
細かい爆発が続けて起こる。大噴火の瞬間を目の前の映像で見せつけられた杏美は、抗う力を全て失ってしまったのだ。
高く舞い上がった金粉が、部屋全体にキラキラと光ながら舞散る。その美しさとは比べ物にならない匂いを伴って。
全てのガスを放出した杏美は茫然自失しつつも、極限まで我慢して放出した放屁の快感に、目をふせて半ばウットリとした表情を浮かべていた。いままでの溌剌とした若さだけの19歳アイドルが、妖艶の雰囲気を持てた瞬間であった。
それからすっかり大人しくなってしまった杏美は、それから幼さと妖艶さをあわせもつ本格派女優として成功した。性格が変わったからだけではなく、何か大きな力が常にバックアップしていることは、彼女は知らなかった。
あの放屁プライベート・ビデオは、さる資本家の趣味による個人的な要請のもと、事務所がらみで製作されたものであったのだ。杏美以外にも、この放屁の宴の餌食になった女優や歌手は多く、全ての出演者がその後大成功しているという。
-END-
戻る