新バック・バースト・中編『ゾルズ族の女』(下)

は、逆さに宙へ吊り下げられていた。
「かかったな、ばかクヌークスめ」
笑い声と共に現れたのは、はたしてゾルズの女であった。
先程の、黄褐色の尾に筋肉質の身体の頭と異なり、はん紋のついた白く長い尾を持つこのゾルズの女は、しなやかでスマートな体型を有していた。 しかし、黄と黒のまだらの髪は、頭とその子分同様に逆立っており、胸の前ははだけ頭や子分に比べ幾らか白い肌の乳房が露出し、やはり片方の乳首は無い。おまけに、全身からきつい獣の体臭を発散させている。 むき出しの腕とくるぶしには、汚い布が巻かれており、草食の獣のなめし皮らしきスカートを結ぶ腰ひもに、頭一つ分程の大きさの布袋が下がっていた。
「あたしの姐さんの子分に、ひどい事したんだってねぇ、よそ者の分際で。吊り下げられてると、お前達の得意なプーも出来ないだろ。姐さんと、シパとシプの分もまとめて、じ
っくり食べてやるから、覚悟おし」
 プーとは、一般に子供同士が相手をなじる時に使う言葉だが、時としてクヌークスの武器そのものに対しても使われる。
逆さに吊り下げられた女は、じっと眼下の女を見つめた。緑色の縦長の瞳と、うすいブルーの瞳の視線が空中で衝突した。
「ほんっっとに、可愛くないねぇ、暴れも泣き叫びもしないなんて。クヌークスなんて、大っ嫌いだよ。……、いいさ、このレスナの手に掛かれば、どんな奴も半べそかいて、早
く殺してー、って言うようになるからさ」 
レスナは一人で喋り終えると、長い木の棒を取り出した。 太い幹の後ろに隠してあったその先端は丸く削られ、中央に浅く縦の切れ込みがあり、側面に何か模様か文字のようなものが刻み込まれている。どこか儀式めいたものを想起させる硬い材質の棒は、二㍍程の長さに、大人の握りこぶし大の太さを兼ね備えていた。
 女が腰のベルトへ手をやるのを見ながら、
「まずは、パンセル姐さんの分」
言うなり、逆さ吊りの女の身体へ思い切り棒を振りかぶり、打ちのめした。前に屈む事も許されない状態で強く腹を打たれ、身をよじるように縮まった胃の中のものがこみ上げてくる。
「シプの分」
背中をぶたれ、筋肉と骨がきしみ、痛みに息を詰まらせた女の顔が歪んだ。
「すてき、かわいい、そうでなくっちゃ!」
棒を片手に持ち、レスナは自分の股間を押さえ、うっとりとした。
「……顔はやめといてあげようかね?」
言いつつ、鼻柱を叩いた。
「シパの分を、忘れてたよ」
痛みと共に女の脳天へ、つーんとキナ臭い刺激が走り抜け、鼻血が額を伝い落ちた。
 棒をさらに全身に叩きつけられてぐったりした相手を見届けたレスナは、ぺたんと座り込み、なめし皮のスカートをたくし上げると股間へ手を突っ込み、わざとらしく激しくこすった。その動きに合わせて、尻から出た長いはん紋の尾がうねくった。
「ああーっ、いい。たまんない!!」
大げさなよがり声をあげスカートを捲くり上げたまま立ち上がると、吊り下げられた女の顔面を狙って尻を持ち上げた。
長い尾をひょいと振り上げると、音を立てて下から噴水のように生暖かい水柱を放水した。目をつぶった血まみれの女の白い顔に向かってうすい黄色の液体がほとばしり、飛
沫をあげて滴った。 レスナはさらに、濡れそぼった女の顔を狙い尻をもじもじと動かし近づけ、
「あたしのプーも、嗅いで見るかい?」
言いつつ声に出してきばるにつれレスナの肛門部が伸縮し、穴が開くとブバッと音を立てて透明な温い気体が女の顔へ放たれた。
「あ痛た…お尻が裂けそうになったよ」
尻を押さえつつ鼻をつまみ、「あたしのも結構クサいだろ?ん?」
ぺたぺたと女の顔を棒ではたきながらレスナははしゃぐ様に言ったが、女は目を閉じたまま、長くしなやかな茶と白の頭髪の先から尿のしずくをた
らし鼻から流れ込んだ血をはきだした。
 レスナは鼻を鳴らして顔を上げ、女の顔に付着した放水の匂いを嗅いでから棒を握り直すと、二、三歩後ろへさがり、長い木の棒の丸い先端を女の股間へあてがった。
ぴくぴくと丸い耳を動かしつつ、「さっきは痛かったろ?今度は、気持ち良くしてやろうね」 無言でだらりと吊り下げられたままの女へレスナはむっとしつつ、押し付けた
棒の先端をゆるゆると男根よろしく動かし始めた。
 足を閉じるにも、両足を半ば開く格好で吊り下げられている。女の左右にそびえ立つ太い幹の根元に、重しの石を詰めた袋が見えた。
ズボンの上から秘所をしつこく棒でまさぐられ、女は腰のベルトをさぐりつつびくんと震えた。 女の、ベルトを探っていた手がナイフのホルダーに触れ引き抜くと、背中を丸めずきずきと痛みの走る腹筋を使って上体を起こし、足を拘束している太い縄の片方へ手を伸ばした。
「あっ!!」
 まさか、女にそれ程の力が残っており、また、あるとは思わなかったレスナは驚き慌てた。手に握られた肉厚のナイフを見て、「ナイフを、取り上げとかなきゃね」言うなりレスナはくるりと背を向けスカートをまくり、むき出しの尻を、縄をこすり切ろうとしている女の上体へ向かい高々と持ち上げた。尾の先端を背中の上部までふり上げるやいなや、透明な液体が霧吹きのようになりつつ雨のごとく女の上体へ降り落ちた。 女は振り落ちる尿の雨にびしょ濡れになりながら縄を切る手を休めなかった。
レスナの足の間から大量の水柱がほとばしり出続け、次第に勢いを失いたれ落ちる滴となった時、縄を切ろうとしていた女が低くうめき、起こしていた上体をだらりとさせ、ナイフを握っていた手指が柄から力なく離れると、ナイフはざくっと真っ直ぐに草地へ突き立った。
 レスナは尻を振って残りのしずくを落すと、スカートを下ろし振り向き、びしょ濡れの女を見て微笑んだ。「ゾルズ秘伝の痺れ薬の味はいけるだろ?ほんの一寸の間苦しく
て身体が不自由になるけど、死にゃしないから安心しな」 ぜいぜい、と喉を鳴らす女の革のズボンの股間へ再び棒をあてがい、上下させ始めた。
棒で相手の秘所を辱めつつ、レスナのもう片手は自分の股間へ消えていた。
わざとらしい大きい喘ぎ声と、ぜろぜろと喉を鳴らす切迫した喘ぎ声とが交錯した。
レスナは、苦しさと快楽の半交じり状態の相手の身体が小刻みに震え、絶頂を迎える寸前を狙って両手で握り締めた棒を女の身体へ叩きつけた。
 女の喉からげうっと言う音が洩れると、レスナの粘着性の笑みは深くなった。
棒を木の根元へ置きつつ、突き立ったナイフを見て「やっぱり、じっくり可愛がってあげなくちゃね」言いながらナイフを引っこ抜き、女を吊り下げている重しの先の縄をナ
イフで切ろうとし慌てて、腰ひもの大きな袋から小さな丸い板のような黒いものを一枚取り出し、口へ放り込むとにちゃくちゃと音を立てて噛み、ごくりと飲み下した。
「これでよしと」
言いつつ、次にうつわの様な形の白いものを取り出し、目鼻と口を覆った。
 伸縮の効く素材で出来たベルトを頭の後ろへ回して留め、マスクをし終えたゾルズの女は、乾いた血のこびり付く上半身液体でずぶ濡れた女を縄を切って木から下ろし女の腰からもう一本の小ナイフを抜き取りパウチを外して草地へ横たえると、ゆっくりと体重をかけて覆い被さった。
 仰向けにされつつも睨み付ける、血と尿にまみれた女の顔を見て、レスナは縦長の瞳を光らせつつにっこりと微笑んだ。
「怖がらなくても大丈夫。たっぷり時間をかけて、やさしくしてやるから。久しぶりなんだもの、お前みたいな綺麗で可愛いエモノって」
 くぐもった声で言うレスナの獣の体臭が濃くなった。 女の顔を挟み込み、口をくっ付けようとしマスクに邪魔されたレスナは、顔の横のつまみを引き口の部分を開いた。肝心の鼻は目と共にしっかりとガードされている。
姐に似たしぐさで口の周りを一なめしてから紫色の長い舌を、息の整い始めた女の唇へちろちろと這わせ始めた。 横を向こうとする顔をやんわりとした動作でがっちりと両手で挟み、薄い色の唇へぼってり膨らんだ唇を重ねた。 口中をこねくり回すように舌を差し入れ、緊張してこわばった女の舌に絡ませると、少し息継ぎをして再び口付けた。 唾液の糸を引きつつ口を離し、血のついた女の鼻の下から額、喉からあご、耳たぶ、耳の裏を舐め上げる。「…おいしい」 レスナはうっとりしつつそう言うと、女の革の服の前を開き、白いシャツのボタンを一つ外すごとに隙間から覗く淡雪のような肌へ柔らかくにとついた口付けを繰り返した。 ボタンを外し終えると、胸元をはだけさせ、小さめの目の醒めるように白い乳房の丘からふもと、谷間まで舌先を這わせた。淡い色の乳首を口に含むとゆっくり回すように吸っては舐め上げ、みぞおちを辿って形の整ったへそまで自分の舌が達したところで、浅いくぼみに舌の先端をくじり入れ、レスナは下腹部へ舌を這わせていった。
「…止めるなら、今のうちだぞ」 幼げともとれる、少年とも少女ともつかない低声を初めて聞いたレスナは、快感を覚えぶるりと身を震わせた。
「いい声してるじゃないか、ますます気に入ったよ。お前の色っぽい声、もっと聞かせておくれ」
「クヌークスを興奮状態にすると、ガスの制御が効かなくなる」
 うすいブルーの瞳で自分を見つめる相手の額をレスナは指でぴしんと弾くと、マスクの側面をとんと叩いた。
「これが見えないわけじゃないだろう。プーなんてへいちゃらだよ。幾らでもするがいいさ」
レスナは再び身体を沈め、体重を乗せて女の唇をふさぎ片手で身体をさすりつつ、革のズボンの丸い留め金へ手を掛けて外し、ジッパーを下ろすと女の手を取りそこへ導こう
とした。
「…暴れないの。すごく気持ち良くしてやるからさ」 
痺れの取れかけた身体で抗う女の手を無理やり女自身の秘所へ添えさせ、握った女の中指を自分の中指と人指し指とで挟み込み、しなやかな動作で押さえつけながらそのまま、下着の中へすべり込ませた。空いた自らの片方の手を、レスナはなめし皮のスカートの中へ突っ込むと、薄茶の眉をひそめる相手の顔を見ながら自分の秘所と相手の秘所を同時に、少しずついじり始めた。 時が経つほどにレスナの両手の間からかすかな、湿った音が立ち始めた。 女が無言で身をよじると、レスナは深く口付けながら大量の唾液を分泌させ、舌を使って女の喉へ流し込んだ。ングッと女の喉が鳴り、唾液を飲み込んだのを感じたレスナは、中指を挟んだ右手の速度を増した。 湿った音が連続して立ち始めると、女はしっとりと汗に濡れ始めた。 溶けかけの雪のような身体を何度かのけぞらせたが、塞がれた口からは呻き声さえ漏らさなかった。
 レスナは自分の陰部より汲み出した淫液を指へ纏いつかせたまま、指を女の胸から喉を伝うようにして持っていき口を女の唇から離すと、そこへ液を丹念になすりつけた。
女がぐいと顔を背け、草に押し付け液を拭い取るのを見ると目を細めつつ、再度自分の陰部へ手をやり、新たに付けた液を女の下着の中をまさぐって女の手の平へなすり付けた。 儀式めいた一連を行ったレスナは、
「これで、お前はあたしのものだよ」
女の耳元で囁く様にして言うと再び口付け、いじり始めた。
 女の胸肌が、首筋が、顔が汗を帯び、上気していく。 ひときわレスナの鼻息が荒くなり、口を離すと身体を丸め、細かく震えた。
「はう、あっ、あ、ああ、」 
空中に振り上げた長い尾の先をびくびくと振りつつ、登りつめようとしていたそのときレスナは、眼下の女がきめの細かな白い喉をくっと反らすのを見た。身体の両脇で膝が持ち上がるのを感じると同時に一転した動作でレスナは素早くマスクのつまみを引き下げ、口の部分を閉じつつ、悠々と勝ち誇ったようにくぐもったよがり声を上げながら絶頂に達した。 レスナは息を弾ませて身を起こすと膝を立てた女の革ズボン後方の隙間へ手を伸ばし、発射寸前の状態にある女の膨らんだ窪みへ指をあてがい、突っ込んだ。
 女が眉根を寄せるのを見て、笑みを浮かべつつ指を動かして中をこねくり回すように奥へ押し込んだ途端、びりっと痛みが指先に走った。
「あぢっ!」
慌てて引っこ抜き胸元に引いた指先には、粉でも液体でも固形でもない、獣脂から作る石鹸の泡の表面の様なもやもやとした何かが付着しており、それは定位置で油の膜のごとく流動しつつ、やがてじりじりと火傷のような熱を生じ始めた。「あぢぢっ!!」指を振りつつ草になすりつけた。凝縮されたガスの素の付いた草は、見る間に伸び、芽を吹き蕾みが出来花が咲き実が成って、黄色くしなびよじれると枯れ落ちてしまった。
 あっという間に起こった事にぞっとして指を見ると、黄色く変色しており、尖った指の爪先が少し溶けていた。
「な…何……」 
女と、指を見つめるレスナの後方から、勢いのあるプシーッ、という音と共に狭い箇所から空気が一気に抜けるような音が立ったかと思うと、マスクを通した視界を黄白色の霧が押し包んだ。
 レスナは深呼吸すると頬をほころばせ、
「ふ…、うふふ、このプーが、クヌークスの汚点さね。これがなけりゃ、お前たちも街に置いてもらえるだろうに、街はクサいのと凶暴なゾルズは、要らないってさ」
どこか自虐的なくぐもった笑い声をあげたレスナはしかし、そこで異変に気付いた。 
「お……、うッ、…あうっ、…そ、そんな…」
 女のズボンの後ろに開いたうすい茶味がかった桃色の窪みの噴門から、黄白色の霧が噴出し続け、ねっとりとした厚い質感の雲状と化していた。そこから生じるガスの帯が猛烈な臭気をともない、じわじわとレスナの耐毒性マスクの中へ浸入してくる。
「む…ぐ…げうぅっ、げえーっ!!に、においが、においが洩れてくる…ぐ、くさいっ!くさい──っ!!!」 
根こそぎ鼻をつかんでもぎ取りたくなるような凄まじい臭気に、レスナはフギャーッと叫ぶと、素朴なバネ仕掛けの人形の様な動作と勢いで女の身体からはねのき、どさっと草地に転がり倒れ、襲い来る猛烈なガスの匂いを避け払うように手足をばたつかせてもがいた。 レスナの身体の下、草の中にいた虫たちが黄色の雲と帯の中から次々と飛び立ち、幾匹かはまた何事も無かったかのように、潰れる心配の無い静かな草地へ降り、姿を消した。 強い吐き気を催す強烈な臭気にのた打ち回るレスナの黄色く染まった上空を、すい、と小鳥が横切り、飛んでいる虫を捕らえると何処へか飛び去った。
 クヌークスのガスは、草木をわずかながら活性化させる成分を含有しており、─その匂い─ ─クヌークスやゾルズと異なる食肉獣目のドルぺオ族が、身体から緊張した際
に放つかすかなじゃこう臭、卵の腐った匂い、活火山の近辺に漂う死の匂いと、あらかたの生物の胃腸内で生成された腐敗ガス臭とを集めて何千万倍にも強め凝縮した、としか例えようの無い猛臭─も、祖先代からの天敵である鳥のワシタカ類を除き、害意を及ぼす気の無い生物には効かないのだった。
 レスナは、マスクを装着してなおも効果を失わない、空中に散布され漂う濃密なガスの匂いに耐えかねたか引きむしる様にマスクを外し、げぇっと喉を鳴らしたかと思うと
吐しゃ物を撒き散らした。目茶苦茶にのたうっていた尾をくの字に折り曲げつつ、ぐるるる、と怒りの唸り声をあげ、口元を拭おうとして変色した指先から立ち昇るガスの素の名残りの強烈極まる匂いで強い目まいを起こし、目を白黒させつつぐにゃりとくず折れた。 「ぐく…ぐぞっ…」意識を混濁させつつもレスナはなめし皮のスカートの脇から何か取り出し、その、木で作った小笛の様なものを口に含もうとした。
 が、ズボンの前を閉じつつ女が近づき、震えるレスナの手からそれをつまんで取り上げた。
「がっ…、返せ」
レスナは、吐しゃ物と涎を口から流しつつ今や麻痺しかけた身体に力を込め首を動かし、女を見た。女は、ぱきりと音を立てて伝達用の笛を折るとしばらくレスナを見つめていたが、やがて決心したかのように非情にもくるりと背を向け片手で革ズボン後方の上ぶたをめくり押さえ、濃茶と白の短いふさ尾の生えたズボンの下部より覗く白い尻の奥、小さな窪みの穴部分をレスナの顔前へ突き出した。
「あっ…がっ、ひいいい」 女は無言のうちにレスナの鼻先でぐっときばった。
膨らみを帯びてきつく窄まった皺に縁どられるうす茶の窪みが開き、少し外側にめくれた。皺が薄まるにつれ、真ん中を横一文字に閉じた形の白色の粘膜が押し出されて来た。そのかすかなしわを帯びる一文字形の両はじから、一対のピンク色の突器が小さく出たかと思うと、突器の先端に空いた穴の一点から、かすかな音を立てて桃色がかった濃い黄色のガスが短く一吹き、噴射された。
「ぐぐ……がーっ!!」
ばたばた、とレスナの全身が震え、ややあって、両目をどろんとさせたぼってりした口から、だらだらと涎を流しつつ仰向けになると、乳房を両手できつく何度か揉みしだき両手を外し足を広げて股間へあてがったかと思うや、猛烈な速度でこすり始めた。 女は向き直ると、虚ろな目を空の一点に向け狂ったように股間をこする、涎を流し見る間に汗にまみれていくレスナの上に、胸をはだけたままの格好で横から覆い被さった。
 女は激しく揺れ動くレスナの身体を抱きかかえ、目を開いてそのままの姿勢でいた。
もはや、わざとらしいよがり声をあげる間もなくレスナは凄い速さで、生温かく濡れそぼる箇所をこじ開けるようにしてこすっていたが、突如エビぞりに激しく反り返ると白目をむいた目から大量の涙を溢れさせた。口から泡を吹いたかと思うと、がくっと力を抜いて静かになった。ぱたり、とはん紋の尾が動かなくなった。
 女が身を離した時には、レスナは完全に息絶えていた。
先程のガスは、一族の男と女が交合(プスプス)をするにあたって、前戯の際に互いへ嗅がせあう特殊なガスだった。性交時の興奮状態や敵に向かって放つガスとは異なり、
一族以外の食肉獣目にとって、激烈な効果をともなう催淫剤のような働きをする。その激烈な効果によって、嗅げば自らの命と引き換えに、この世ならぬ快楽を手に入れる事
になる。 つまり、身も心も魂も一気に昇天してしまうのである。
 一生分の淫液を足の間から滴らせたような、ぬらぬらとおびただしい量の液体の照りを帯び、どす黒い黄色と紫色に変色したその部分は、飲み下した薬の含有する薬物効果を示していた。 太ももをむき出して息絶えるゾルズ族の女・レスナの涙に濡れ、白目を剥いた両の目を女は閉じさせた。立ち上がった女は草むらで手の平や指、肌についた液を擦り取り、草の汁を付けてからボタンと革の服を元通りにした。二、三度唾を吐き、万年ニガヨモギ草をむしって口に入れ、汁を飲み込み噛んで捨てると、草むらに転がった二つのナイフとパウチとを腰へ収め、縄でくくった荷物と帽子を拾い、肩に引っ掛けて歩き始めた。
 ゾルズ族は、隠れた習性として、一たび自分の身が危うくなると、秘薬を用いて己の体質を変え、薬の効果に応じて敵を倒す。筋肉志向派の頭・パンセルとその子分たちは
例外とも言えた。しかし、相手が離れた隙に一人、一人が仕損じればまた一人と仲間を呼んでは密かに付け狙わせつつ、呼んだ当人自身も相手を付け狙い、命を奪う卑劣な手段をこうじる。その点では、レスナと同様であった。
 女頭の際にそれに気付かなかったのは、女の不注意もあるが、頭・パンセルが心底、相手がクヌークスと知った時点でその自前の武器の威力を嫌がっていたためでもある。
振り向く事もなく女は黙々と歩いていたが、やがてうすいブルーの一点の澱みも無い両の瞳が膨らみを増したかと思うと、ぽつ、とふたしずくの熱い水滴が、その白く滑ら
かな頬を伝い落ちた。 薄めの唇は、きつく引き結ばれ、僅かに震えていた。涙を、こらえているのだった。
 新たな霊長目と化し、食肉獣から発達を経た者同士の闘争と命のやりとりは、「類人猿目」及び「人類」の滅び去った今のこの世界でも、日常の一片に過ぎなかった。
 目前が開け、真っ直ぐに続く森を抜ける道が現れた。 女はしばらく立ち止まって耳を動かし、周囲の気配へ向かって全身を研ぎ澄ませた。女頭や子分の放つあの独特の体臭も、それらの殺気も感じず、他に害意を持って潜んでる者もいない。
 道の左右から覆い被さるようにして生える木々の枝葉の隙間を通して、午後の穏やかな陽の光が洩れている。腰に下げた皮袋を手に取り、木の皮で作った栓を抜くと、中の水を渇いた喉へ流し込んだ。幾度か喉が鳴り、思いの他渇ききっていた食道から胃へ、ちくちくと僅かな刺激をともない潤おしつつ水が下り落ちていく。
 女は、軽く息を吐いて口を離し、帽子を頭に載せると、ちらちらとまたたく星のような木漏れ陽の光を点々と地に落とす、木々のざわめく道の中へ足を踏み入れていった。

        ___ゾルズ族の女・(下)・完___

*****あとがき*****
 バックバーストは案が浮かべば書くし、浮かばなければ書かないので、次ぎあるかどうかわかりません。 読んでくれた人の応援は心のはげみになります。 しかし中には
、脈絡も無いけなしや中傷、その他嫌がらせ目的で、応援してるようなふりをする心無い事する人もいます。あと、相手にこんな事言ったら絶対傷つくというような事をいじ
め目的で言う人とかも同じ。 それで相手がペースを乱し、壊れるのを見ては、自分の思い通りにはまったと、半分馬鹿にしつつそれを密かに楽しむというか、悦びに変える
人が。 邪まな心は、見てくれじゃわからんけど。
 よく、気に入るといじめたくなるとか言う人いるけど、プレイ以外でやったら「犯罪」でしか無いことを、自分の頭に叩き込んどく事が必要です。 最初は楽しく付き合っ
てたが、拒まれたとか、相手の断り方に頭来て相手の首絞めたとか、コンクリ詰にした、電話責めにしてノイローゼにした、しつこく追いまわし、あげく刺し殺した、殴り殺し
たという事件、ざらです。 そんな事なったら、「頭がホワイトアウトしてた」とか「つい」とか「出来心で」じゃすまされんよ。(司法が許したとしても)。
ありがちなのは、人の私生活に自分の過剰フェチを押し付けるような事を、当然のように思ったりしたりする勘違い型フェチの人が出て、それが事件に近い事にまで発展する
ケースです。
 相手に対するときはくれぐれも、他人の自覚する・しないに関わらず迷惑かけずに自分の範囲で対処出来る「趣味のフェチ」と、人の私生活ごと破壊するような傷つける類
の「行き過ぎのフェチ」とを、まぜこぜにしないようにしたいものです。
 下手すると、本当に死や一生の傷になりかねない事ですので、よく使われる「アダルトの場で、良識を求められても困る」というような「やぼな事」をいわないで下さい。
    (終わり)

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