『黄色い風の教団』
「出
してくれ!!僕じゃない!
僕は殺してなんかいない!!」
地下牢に僕の叫び声が響く。でも、そんな必死の訴えに耳を貸す者などいるはずも無かった。
 
 
ああ・・なんでこんなことに。
あの日、僕はいわれたとおりに、神殿の庭の植え込みを手入れしていた。
いつもと変わらない、下働きの仕事のはずだった。
一仕事終えて、休憩しようと井戸のそばまで行ったら、顔見知りの修道士が倒れていて・・・。
それを神官の一人に見られて・・・。
そりゃあいつも仕事が遅いだの、手抜きするなだのってうるさく言われてたけど、
だからって殺すわけがない!!
・・・でも、お城の役人はろくに調べもしないで、僕が殺したんだと決め付けた。
神聖なる神殿の敷地内に於いての人殺し・・・僕の処刑が決まるまでに、そう時間はかからなかった。
 
 
そして僕は、お城の地下牢に繋がれ、処刑を待つ身となった。
処刑の期日はまだ決まっていないらしい。
絶望の中、薄暗い牢の中で何日かが過ぎた。2日、いや3日だろうか。
「いやだぁー!!離せぇ~~~!!」
端っこの牢から囚人が連れ出されていく。処刑だ・・・。
看守の兵士たちの話では、人を殺して金を奪った男らしい。
抵抗も空しく、通路の突き当りの部屋へ引きずられていく。僕もいずれはああなるのか・・・。
そのとき、反対側の扉が開く音がした。見ると兵士に案内されて、ローブを被ったシルエットが
近づいてくる。
処刑人・・・か?
その人物が僕の牢の前まできた時、思わず目を見張った。
ローブに刺繍された紋章は、僕が雑用として働いていた神殿のシンボル、
「白と黒の獣」だったからだ。
そういえば・・・聞いたことがあった。
罪人の魂を浄化し、「黄色い風の女神」の元へ誘うのは、かの教団の務めであると。
その教義を実践すべく、処刑される者への祈りはおろか、その「実行」さえも行うのだと。
そして、それらの裁きは、みな、うら若き・・・。
 
 
ふと、ローブの人物・・・処刑人でもある、神官が足を止め、こちらを見た。
目深に被ったフードを上げると、それは、
僕と歳が同じくらいの、若い女の人だった。
その大きな目と透き通った肌が、薄暗いたいまつの灯りの下でもよく確認できた。
まだ少女のようでいて、それでいて凛として清楚な美しさを持った、神秘的な女性・・・
僕は半ば呆然としながら、目の前の女性を見ていた。
「この者が、例の―――?」
女性が傍らの兵士に尋ねる。
「はい。神聖なる場所を汚した大罪人でして・・・って、あれ?」
女性は僕を一瞥すると、説明を続けようとする兵士を置いて先へと進んでいった。
「やれやれ、神官様ってのは妙なお方が多いぜ」
兵士は慌ててついて行くと、突き当りの部屋に女性を通し、自分は中に入らず扉に鍵をかけ、
脇に控えた。さっき囚人を部屋に連れて行った兵士たちも同様だ。
囚人は既に何かで動けないようになっているらしい。悲鳴だけが聞こえてくる。
「ヒィ、く、来るなぁ!助けてくれぇ~~~!!」
いつかは自分がそうなるというのに、僕はじっと聞き耳をたてて、様子をうかがっていた。
好奇心が、死への恐怖心を凌駕していた。あんな女性が一体どうやって?
まさか斧で首を刎ね飛ばす訳でもあるまいし、短剣か何かで胸を貫くのだろうか?
「や、やめろ来るな・・・な、何だぁ!?」
様子が変だ。何かに驚いているような・・・。
それっきり物音は聞こえては来なかった。
 
 
コン、コンと、扉を叩く音が聞こえた。
「終わったようだな」
兵士が鍵をはずし、扉を開ける。
女性が何か袋のような物を引きずって、部屋から出てきた。囚人のなれの果てだ・・・。
「・・うぷっ!は、はい結構です。ではいつも通り埋葬もお願いします」
死体を確認した兵士が口のあたりを押さえている。そんなに惨たらしい死に様なのか・・・?
やがて死体袋を引きずって女神官が前を通った。
「・・・ウッ!?」
兵士が辟易していたわけが分かった!なんてニオイだ!!
死体は硫黄のような臭気を放っていた。そばにいるだけで頭がクラクラしそうだ・・・。
それに男の死に顔・・・
薄笑いのような表情。口の端に泡をうかべている。
一体・・・一体どんな殺され方をしたんだ!?
 
 
「では・・・」
地下牢の入り口で袋を台車に乗せると、女性は兵士に一礼し、出て行こうとして、
「ああ、それから・・・その者の儀式は明日執り行います」
と伝えた。
「承知しました」
兵士が返礼し、見送る。
・・・儀式?まさか・・・
「あの、儀式って・・・」
「ああ、貴様の処刑のことだ」
や、やっぱり・・・!!
「い、嫌だーっ!!僕は無実だー!!」
「うるさい!観念しろっ!!
・・・クク、まあ最後にいい思いが出来るだけありがてぇと思わなくちゃなァ」
「・・・えっ?」
「特別に教えてやろう。あの別嬪の神官様は、囚人を尻の下であの世に送ってるのさ」
「・・・え?ええ!?」
「信じられねぇだろうが、お前は明日、女の屁で処刑されるんだよ!」
 
 
その夜、僕は一睡も出来ずに、明日のことを考えていた。
聞こえなかった断末魔。、悪臭を放つ男の骸・・・。
最初は兵士の下品な冗談かと思っていたが、考えれば考えるほど本当のように思えてくる。
明日、僕はあの綺麗な女性のお尻の下で、オナラを嗅がされて・・・
恐怖も、無念もあった。
でもそれよりも、説明の仕様の無い興奮が、身体を駆け巡った。
そんな事から逃れようと目を閉じても、想像の中で丸いお尻が迫ってくるような気がして・・・
結局、処刑の朝を迎えることとなった。
 
 
粗末な寝台に仰向けに寝かされ、手と足を鉄の枷でくくりつけられた。もう逃げることは出来ない。
部屋の空気はすっかり入れ替えられたようだが、それでも昨日の「残り香」を感じるような
気がする・・・。
「あばよ。せいぜい安らかに逝くんだな」
兵士たちが部屋から出て、遠くの方で鍵の閉まる音が聞こえた。
僕の縛られている部屋と、あの鍵のかかる扉はさらに長い通路で隔たれていた。
多分、地下牢のほうまで臭気が漏れないようにするためだろう。
その長い廊下を、近づいてくる足音。
女神官・・・処刑人だ。
 
 
「・・・黄色い風の女神よ。愚かなる魂を、薫風の楽園へと導きたまえ・・・」
両手を組み、僕に向かって祈りを捧げた彼女は、ゆっくりとローブを脱いだ。
昨日と同じ女性だった。心なしか紅潮しているように見える。ローブの下は何も着てはいなかった。
細身に見えて、華奢な印象を抱かせないのは、形のよい胸のふくらみと、豊満なお尻のせいか。
美しい裸体が、たいまつに照らされて、近づいてくる。
僕の頭のすぐ傍まで来ると。ゆっくりと後ろを向いた。
「う・・あぁ・・・」
巨大な桃が、顔の寸前に迫る。圧倒され、微動だに出来ない僕の顔を彼女は後ろ手にやさしく
押さえ、わずかに腰を屈めた。
むにっと肉塊が押し付けられ、深い谷間が視界を占めた。
「何か、言っておくことは?」
彼女の問いかけに、僕は我に帰った。
「ぼ、僕は殺してないんだ!無実なんだ!!」
僕の訴えに、目の前の谷間の一番深い一点が、花の蕾が膨らむように大きくなるのを
見た・・・。まさか・・・そんな・・・!!
 
 
『プゥゥゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ』
「ふぐっ!?うあぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
臭い、臭い臭い臭いっ!!
小さなため息をつくかのように放出された彼女のオナラは、僕を地獄へと突き落とした!!
「裁きを受け入れ、魂を清めるのです」
『プスッ、プシュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
「がはぁっ、かは、っは、かぁ・・・・」
『プウッ・プッ・ププッ』
「・・・ぁうっ、・・・・っは・・・」
 
 
臭い・・・息が・・できない・・・
目が・・・霞む・・・・
なんで・・・なんで僕が、こんな・・・
こんな綺麗な人に、オナラで処刑されるなんて・・・
 
 
ギシッ・・・
もはや呼吸すらままならなくなった僕の胸の上に、彼女は跨った。
肩越しに見下ろしながら、少しずつ、お尻を顔の上へと動かしてくる。
僕は死に直面し、恐怖すると同時に、強い興奮に侵されていた。
ズムッ。
やがて彼女のお尻が、僕の顔を完全に制圧すると、僕は恐怖と息苦しさと、かつて味わったことの無い
興奮とで、何も分からなくなり、ひたすらもがき続けた。
「んっ!んんんんっ!ん~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ひく、ひく・・・
彼女の蕾が、鼻先で収縮するのが、理性のとんだ頭にかろうじて分かった。やられる・・・
だが、いくらもがいても、豊満なお尻の下から抜け出すことは叶わない。
股間が痛いくらいに反応している。今から、地獄の風を吹き込まれるというのに・・・。
なんでこんな、こんな気持ちになるんだ・・・・!?
 
 
「黄色い風の祝福あれ・・・」
彼女は厳かに呟くと、その内側に吹きすさぶ「風」を、余すところなく僕に送り込んだ。
『ブウッ・ブウゥゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~・・・・・・ッ』
「・・・・・ぁ・・っ・・・・!」
女神の裁きは、僕を鼻先から貫いた。
僕は精を放つと、意識が黄色い混沌に飲み込まれていくのを感じた。
 
 
 
 
「あ、れ・・・・?ここは・・・?」
僕は小船の上にいた。でも周りが暗い。地下・・水路?
「お目覚めになりましたね」
声に振り向くと、そこにはあの女神官がいた。
小船を漕ぐ手を休め、僕の顔を覗き込んでくる。別人と思えるほど、表情が明るい感じだ。
「ご気分はいかがですか?」
「まだクラクラする・・・それより、僕はどうして・・それに君は・・?」
 
 
「・・・それで、私があなたを気絶させ、処刑したと見せかけて救出を・・・」
「そうか。僕を有罪にした奴の中に、本当の犯人がいる、と」
彼女が言うには、教団上層部でも、例の事件は他に犯人がいるとの結論が出たらしい。
だが、そいつの手先であろう城の役人はそれをもみ消そうと僕を犯人として処刑しようとしたのだ。
「あなたの身は、わたしたちがお守りしますわ」
「ありがとう。でも・・・さっきは本当に死ぬかと思った・・・」
「ごめんなさい・・・。兵隊の目を誤魔化すには、あれしかなかったもので。
あ、でもでも、万一のことが無いように、ちょっとずつ嗅がせたんですよぉ」
「・・・おかげでこっちはなぶり殺しだよ」
「「アハハハハハハハ・・・」」
 
 
さっきあんな目にあったせいか、まだ助かったという実感がわかない。
それにこの娘、実際に処刑人ではあるんだよなぁ・・・。とてもそうは見えないけど・・・。
そんな事を考えていたら、彼女が話し掛けてきた。
「あ、そういえば、この水路の出口にも、検問の兵士がいるんですよ」
「えっ?大丈夫なの?」
「それでぇ、詳しく調べられるとまずいんでぇ・・・」
「え?」
彼女は後ろを向いて、ローブのすそを捲り上げた。
まだ満足に動けない僕の顔に、巨大な桃が圧し掛かる!
「うぷっ!ちょ、ちょっと・・わっ」
ローブの生地がばさっと降ってきて、僕を閉じ込めた。
「もう一度だけ、気絶してて下さいネ!」
「ん~!んん~!!」
「大丈夫です、やさしくしてあげますから・・・。
・・・それじゃ、おやすみなさい♪」
『プウゥゥゥゥッ』
 
 
彼女の声と、オナラとが重なった。
・・・やっぱりこの娘、怖い・・・
最後にそんな事を考えて、僕は安らかに眠った。

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