放屁忍風帖
「ぐ
っ・・ぬぅぅ・・・・っ・・・」
娘の尻の下から聞こえるくぐもった声は、やがて完全に鳴りを潜めた。
ゆっくりと立ち上がる娘。その尻が鎮座していた場所には、白目を剥き、泡を吹き、
苦悶の表情を浮かべた中年の男の死に顔が現れた。
人里はなれた庵の一室、男の顔を中心に、卵の腐ったような匂いが漂っている。


(終わった・・・)
美しいながらも、どこか冷酷さを感じさせる娘の無表情な眼差しが、わずかに安堵の
気配を帯びた。
無理も無い。おのが主君より隠密として、政敵暗殺の命を受けて以来、危険を察してか、
人の寄り付かぬ山奥に隠れ住む“獲物”のねぐらを突き止め、道に迷った旅の娘を
装って男に取り入り、相手が油断し、下心を剥き出しにして、娘に迫ってきた瞬間を
逆に組み伏せ、その臭気・放出量とも人の範疇を超え、イタチの化身を思わせんばかりの
屁を浴びせ、命を奪うまでの道程を考えると、いかに感情を押し殺した“影の者”といえども、
その心中は達成感に満たされるというものだ。
これといった外傷もなく、この世の地獄を味わった末に事切れた男の骸は、たとえ医術の心得
を持った者が検分しても、男の持病である心の臓の発作であるとの見解に落ち着くであろう。
これで一切の痕跡を残さず、主君の敵を闇に葬ることができた・・・はずだった。


「げほっ・・あ・・あぁ・・」
娘が視線を巡らすと、齢にして13かそこらの少年が、空いたふすまを隔てた隣りの間に
腐臭にむせ返りながら座り込んでいる。
男が身の回りの世話をさせるために、人買いに連れて来させた少年であった。
元服にも届かぬ歳とはいえ、女に興味を持っている歳ではあろう。恐らくは時ならぬ情事
の気配を嗅ぎ付け、思わず覗き見していたに違いない。
(見られてしまっては、仕方ない・・・)
娘は少年に音もなく歩み寄っていく。既に臭気に当てられたのか、あるいは腰を抜かしているのか、
座り込んだままあとずさる少年。やがて突き当たった壁にもたれて立ち上がり、とにかく逃げ出そうと
したその瞬間・・・・。
一足跳びに間合いを詰めた娘が、ちょうど立ち上がろうとしていた少年の顔の前に
腰を捻るように突き出し、着物がはだけて剥き出しの丸い尻を鼻先へ押し付ける格好となった。
「むぐぅ!?」
急に巨大な尻に顔を塞がれ、気が動転した少年の動きが一瞬止まった。そして、
『ブバッ・ブシュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!』
温かい気体が娘の蕾より浴びせられ、それを少年はまともに嗅いでしまった。
「ぶぐっ!ふ・かはっ・・・・は・・ぁぁ・・・・・・がっ・!!」
あまりの臭さに、息をするのもままならなくなり、そのまま仰向けに崩れ落ちる少年。
娘はその顔めがけて腰を落とすと、
『プブゥッ・ブッブゥ~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
またしても屁を吹きかけた。
「・・・・・・・・っ・・・・・・」
少年の意識は朦朧とし、もはや指一本動かすことも出来ずにいた。たた、視覚や聴覚などの感覚
――――特に嗅覚は捉えられたかのように娘の屁の臭さを痛感していた。


娘がふと目を落とすと、少年の一物が着物の上から見て取れるほど大きくなっているのを見た。
少年にしてみれば、女子の尻を顔に押し付けられたことなど初めてであろうし、年頃の男として
興奮を覚えぬはずも無かった。たとえ、自らの命が危険にさらされていると分かっていても、
それを押しとどめることは不可能であった。
あるいは、自らを死へと追いやりつつある、娘の恐るべき武器・・・。
その強烈極まりない放屁にすら、不可思議な色気を感じ、欲情していたのかも知れない。
「・・・・・・」
娘は肩越しに少年の虚ろな表情を見下ろすと、体勢を崩して足を伸ばし、少年の首を太股の付け根
に挟むようにした。
少年の目には、絹のような肌の巨大な肉塊と、深い割れ目の奥に息づく桃色の蕾が写った。
そしてそれはさらに大きく視界を塞ぎ、闇と、ぬくもりとが訪れた。
娘が両手で少年の頭を押さえつけ、その鼻先を自らの尻割れへと押し込んだのである。


「・・・ぼうや、聞こえる?」
娘は、まるで幼子にでも語りかけるかのように、少年へと話し掛けた。
「ごめんね・・・。秘術を見られたからには、生かしておくことは出来ないの・・・。
掟だから・・・本当にごめんなさい。」
少年は屁の威力によって放心に近い状態にあり。言葉を理解できるかどうかは分からなかった。
しかしそれでも、娘は先を続けた。
「あたしには、こんなことしか出来ないけど・・・」
娘はわずかに尻を振って、より少年の顔面へと密着させた。その様子は、少年を
自らの豊満な尻に抱擁したと言っても良かった。


「今、楽にしてあげる。あたしのオナラで、安らかに逝ってちょうだい・・・!」
少年の鼻先で膨らんだ蕾が開いた。
『プスッ・スカ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
(・・・・!?・・・・・・・・・・・・・!!)
少年は抗うことも出来ずに、熱い熱いすかしっ屁を鼻に注がれた。
娘の尻は少年の顔に密着しているため、ひと吹きも漏らすことなく・・・。
『スゥゥゥ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
まるで接吻の吐息のように、慈しみさえ感じさせるほど静かに・・・・。
『プスッ・プスッ・プシュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』
(!・・・!!・・・・!!!・・・・・―――――!!!!)
少年は頭の中を、黄色いモヤで埋め尽くされたような錯覚をおぼえ
―――それを最後に、意識が途絶えた。


少年の顔は、あれほどの屁臭に侵されたとは思えぬほど安らかなものだった。
その股間が濡れているのを見たとき、娘は少年が最期に悦楽を感じながら逝った事を
確信した。
(埋葬してやらねば・・・)
骸が2つも転がっていては、最初の暗殺が怪しまれてしまう。
娘は衣服を整えると、少年の骸を背負って、朝靄の中に消えた。

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