は、その家庭教師のバイトがとても楽しみだった。割が良いということもある。でも、それ以上に、生徒の沙紀と何気ない話をすることが好きだった。彼女は、不思議なくらい僕になついてくれていた。僕から見て、彼女のともすれば、子供じみた反応は、とても心がなごんだものだった。僕には同じ大学生のステディな彼女がいて、ちゃんとそれなりの進展をしていたから、15歳の沙紀を女の対象とは見ていなかった。短いプリーツのスカートの似合うこどもっぽい女の子、それが沙紀の印象のすべてだった。
そして、彼女の高校受験が終わった今、沙紀の家を訪れるのも、もう後、数回で終わりになる筈だった。
その日は、春の長雨のぐずついた一日で、景色がみんなグレーに染まって見えるような日だった。
それだけに、玄関へ突進するように出迎えに出てきた沙紀を見たとき、春が一足はやくきたような感じがした。彼女のなんでもない白いブラウスに、レモンイエローのベストの組み合わせがそんな感じを抱かせたのかもしれない。赤いギンガムチェク柄のプリーツのミニスカートは彼女の定番だった。
「 今日、母は、夜まで戻らないんです。ちょっぴりさびしかったんだ・・。」
僕が、土産に買ってきたイチゴのショートケーキをフォークでつつきながら、沙紀がつぶやいた。今日の彼女は、いつもの溌剌とした感じがなかった。
「ケーキ嫌いなの?」
「そっ、そんなことないですぅー。ごめんなさい、なんかおなかの調子が悪くて・・・・。」
沙紀は、無理するように残りを口に詰め込むとコーヒーを飲み干した。
勉強を始めてからも、沙紀は心ここにあらずと言った調子でよく間違えてばかりいた。
机に向っている沙紀を後ろから覗き込むような形で教えるのがここのスタイルだった。
考えて見れば、もう受験は終わったのだ。無理して勉強することもない。そう思った僕は、
「今日は、沙紀ちゃん、調子悪そうだからおしまいにしようか?」
と思わず言ってしまった。とたんに、沙紀が振り向いた。
つぶらな瞳に大粒の涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい。もうボーっとしませんから帰らないで下さい。」
「 春からもう先生に教えてもらえないと思うとなんだか悲しくなっちゃって・・・・。」
僕は、いたいけな少女にあからさまな好意を示されてすこし愕然とした。と同時にそれまで女としては決して見ていなかった沙紀に妙なうずきを感じ初めていた。
確かに、うなじから胸にかけては幼いが、ふたつのふくらみは、しっかりとブラウスとベストを力強く持ち上げている。椅子に腰掛けた部分のボリュームは、スカートの上から見ても、決して、大人に負けていなかった。
「沙紀ちゃん・・・・。」
思わず僕は、沙紀の肩を後ろから抱きすくめるように手を回してしまった。
彼女の少し短めのヘヤーからぷーんとリンスの香りがして、それが甘酸っぱい体臭と混ざり合って僕の鼻腔をくすぐった。僕は、思わず両腕に力を込めた。
「あっ、たいへん!」
彼女は狼狽して立ち上がろうとした。すっかり狼さん状態と化していた僕は、沙紀を自由にしなかった。